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鳥取地方裁判所 昭和31年(行)6号 判決 1957年3月28日

原告 坂本馨

被告 倉吉税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が原告に対し昭和三十年七月三十日附を以て課した昭和三十年随時分物品税金二万八千四百八十円の賦課決定を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、原告は家具の製造販売を業とするものであるが、昭和二十九年二月より昭和三十年五月にかけ何れも同じ形と構造を有する茶箪笥二十本(以下本件物品という)を単価五千六百円乃至八千三百円で移出販売したところ、被告は右物品を物品税法第一条第一項第二種丁類第四十四号、同法施行規則第一条別表(課税物品表)第二種丁類第四十四号ホに定める飾棚と誤解し、昭和三十年七月三十日原告に対し請求の趣旨に掲げる物品税の賦課決定をした上納税告知書を送達し、同年八月八日原告においてこの送達を受けた。然しながら本件物品は専ら茶道具その他日用品の格納を目的とする(前記別表第二種丁類第四十四号イ又はロにいう)茶箪笥であつて、その移出価格が右イ又はロ但書に規定する課税最低限に満たない以上何れも非課税物品であるから、これに対して物品税を賦課した被告の右課税処分は違法である。よつて原告は同年八月中被告に対し再調査の請求をしたが、十箇月を経過するも未だこれに対する決定の通知に接しないので、前記賦課決定の取消を求めるため本訴に及ぶと述べた。(立証省略)

被告指定代理人らは主文同旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、本件物品が茶道具その他日用品の格納を目的とする茶箪笥であること、被告が課税処分をなすに当り誤解に基いて本件物品を飾棚と認定したことは否認し、その余の点はこれを認める。本件物品は装飾の用に供せられる一種の棚であつて、国税庁昭和二十八年十二月二十一日附間消二―九三物品税基本通達(物品税法の取扱について)第二章第十七条の別表第四十四に定めている取扱(七)に照し、物品税法竝びに同法施行規則にいう飾棚であることが明白であると述べた。(立証省略)

理由

原告の主張事実中、本件物品が茶箪笥であること、被告がこれを飾棚と誤認したことの二点を除くほか、その余の事実はすべて当事者間に争がない。

そこで本件物品が物品税法竝びに同法施行規則にいう茶箪笥であるかそれとも飾棚であるかを検討し、この点に関する被告の誤認の有無について考えてみることとする。物品税法第一条第一項第二種丁類第四十四号、同法施行規則第一条別表第二種丁類第四十四号家具のうちイ又はロに定める茶箪笥とホに定める飾棚とは、鑑定人高島芳政、同宗広の各鑑定の結果によれば、何れも社会の通念に従う名称であつて、茶箪笥が主として、茶具、食器その他台所用品の収容を目的とする棚であるのに反し、飾棚は通常その上に美術品などを置いて室内を飾るために作られた棚若しくはその棚自体を装飾の用に供するものを包括して指称すること、従つて構造上飾棚には戸乃至壁のない多くの空段を設け全体に装飾的工夫があるのに引換え、茶箪笥ではたゞ物を格納するためその大部に袋を設け且つ戸を備えているに過ぎないこと、蓋し両者の区別はその主たる用途の相違延いては構造の差異に依拠するもので、これを組成する材質や細工、値段などの違いは必ずしも二者を分別する重要な要素ではないこと、若し棚が装飾と茶器具を収納する二様の性質を具備するときはその棚にとつて如上何れの要素が主たるものであるかに基いてこれを分別すべきものであることが認められる。ところで本件物品は、成立に争のない乙第一号証と検証の結果によれば、右乙第一号証添付の写真に示すものと同一の形状を有する椎製の棚で、その右上と左下の両隅に袋を持つほか下部に浅い引出を備え何れも物の収納に供する部分を具有するけれども、全容積の約三分の二に当るその余の部分はすべて戸や側壁のない空段であるほか形体の全部に亘つて装飾的意匠のあとが窺われ、俗に茶箪笥と指称されるものとはその外容乃至構造に逕庭のあることが認められる許りでなく、更にこれらの事実を茶箪笥と飾棚の相違に関する叙上の基準に比照し且つ前顕宗の鑑定の結果を綜合すれば、本件物品は明らかに物品税法竝びに同法施行規則にいう飾棚であることが認められ、前顕高島の鑑定の結果中この認定に反し原告の主張に副う部分は前記の基準に徴しにわかに信用し難く、ほかに認定を覆すに足る証拠はない。そうすると本件物品の認定に関し被告には何らの誤認もないから、この物品の移出価格が飾棚の法定課税最低限を超過すること原告の主張に照し明確である以上、その移出を課税原因として原告に対し物品税を賦課した被告の課税処分は適法である。

よつて原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 浜田治 古市清)

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